霧のフィナーレ

八十八湯巡り、あと2湯のみ。朝から霧の大分道を別府へと向かう。


別府亀川四の湯(しのゆ)温泉。名の由来について、熱海、有馬、道後に続く4番目の名湯という人がいるが、定かではない。公園のそばにある公民館という風情だ。


入り口でお金を払うと、洗面器を貸し出してくれる。洗面器を抱えて階段を下りると、下駄箱と脱衣場が見える。



ペパーミントグリーンの板塀に黄色ぽいタイル。脱衣場とベンチ、湯船が1つの空間にあり、明るくて開放感溢れるお風呂だ。


湯船は真ん中から2つに別れていてあつ湯とぬる湯。洗い場はない。



11時から2時までお昼休みがあって、私がはいったのが10時半。3,4人のおばあちゃんと赤ちゃんを連れた若いお母さんが、ベンチに仲良く腰掛けて談笑中。湯船にはおばあちゃんが1人つかっていて、こっちのほうから入るといいよと手招きする。

ここはいい湯だ。人間いい気持ちになると心もぺろりと開くのか、この湯にはいってるとみんなおしゃべりになる。私もおばあちゃんにつかまって、空襲の話や女学校の話、勤労奉仕の話など聞かされる羽目になったが、楽しそうに話すおばあちゃんの顔を見てると、こちらまでほっこりと胸の奥が温かくなる。

入り口では大分市から来たというおじちゃんにつかまって温泉談義をひとしきり。上気した顔で別府はいいよ〜と繰り返し言う。このお風呂にはきっとほがらかおしゃべり仙人が住んでいるに違いない。



ここから別府市の中央、別府駅前にある駅前高等温泉に向かう。竹瓦温泉と並んで、別府のシンボルともいえる温泉で、相方はここを八十八番目に入ると決めていた。
大正14年開業の大正浪漫の雰囲気が漂う造り。



2階は宿泊施設になっていて、個室だと2500円、広間だと1500円で泊まることもできる。


別府はここに限らず、温泉施設はもちろんのこと突然行っても安くで泊まれる旅館やホテルがいっぱいある。温泉街としての懐が深いと思う。人タラシの街だ。
電灯を支える天井の意匠もおしゃれ。



入り口であつ湯とぬる湯とわかれており、相方は43度のあつ湯へ、私は40度のぬる湯へと向かう。ドアを明けると古い薄暗い廊下があって、また男湯・女湯に別れている。脱衣場から階段をくだったところにあるお風呂。やったー独り占めだぜ〜〜。


熱い湯と脱衣場の真下にさらにぬるい湯というのがあり、こちらはほんとのぬる湯、34,5度くらいだろうか。交互に入ってミニ湯治。温度の違う湯船に交互にじっくり浸かるのが、身体に一番いいらしい。



お湯に浸かると心がとろけるが、脳みそもとろけた相方。八十八湯制覇の嬉しさではしゃぎ回る。「おまえはどこぞのガキンチョかい!。「ベルトよじれとるし。」「社会の窓はあいとらんろうね。」とわあわあ言いながら、霧雨の中建物の前でピースピースで記念写真におさまった。恥ずかしい夫婦だ。


2湯はいってお腹がぺこぺこ。近くの定食屋さんで大分名物、とり天を食する。柔らかくてジューシー!地元で食べる熱々のとり天はやっぱり美味しい。


のんきにお昼食べてたら、湯布院〜大分が霧で通行止めというニュースに「かえれんごとなる〜」とあわてふためき、お昼からの予定をキャンセルして(まだ入るつもりだった)あわてて帰路につくことにした。


八十八湯、対象施設は120。まだ32湯まるまる残している。別府もまだまわりきっていない。


村や下町の人に長い時間、大切に守られてきた共同浴場は、それだけの理由があった。お湯の成分が身体にいいと言うだけでなく、生活の垢を落として赤心に戻る人々のすがすがしい気がそこに満ちているように思う。陰の気を浄化してくれるようなそんな場所が浴場なのかもしれない。
時代を超えて人に守られ大切にされているお湯がまだまだたくさんあるに違いない。ということで、八十八湯の旅はまだまだ続く。