最近読んだ本

長崎の本屋で火がついた本がある。
ペコロスの母に会いに行く」著者は還暦を過ぎた髪なし族(自称)のおじさん、岡野雄一さん。主人公はその母で、酒乱の夫に先立たれたあと、ゆっくりと認知症が進行し、今は施設に暮らすみつえおばあちゃん。



酒乱の夫に(晩年は短歌を詠む枯れたおじいちゃんになったみたいだが)、苦労しどうしだったけれど、みつえばーちゃんはそれでも寄り添い、「おいしか酒ば用意してまっとりますけん」という。



長崎の小さな家族の小さな物語。忘れること、許すこと、ずっと心に残っている懐かしい人達が繰り返しみつえばーちゃんを訪れる。苦労した日々を包み込むように、誰の頭の上にも「歳月」という風が吹き、愛したという記憶だけが、ゆっくりとみつえばーちゃんを包み込む。


長崎弁がひどくせつなく、何度も何度も読み返してしまう珠玉の漫画だと思う。


ちなみにペコロスとは小タマネギのことだそう。母に寄り添うことで、母の物語を引き出し、聴いてきた息子さん、えらいなあ。

私の父は、膵臓がんで余命半年といわれ、それでも一年半生きた。最期の3ヶ月ほどは痛み止めのモルヒネで、起きてても朦朧としてた。病室の窓辺から陽が差し込み、天井に木漏れ日がゆらゆら揺れるのを見て、父は、「右、左、右、左」とまばたきもせずじっと見つめながらつぶやいた。父は、あのとき海原に浮かぶ船の上で舵をとっていたのだろう。海面に反射する陽の光のなか、確かにあのとき父は船の上にいた。そう思った。


半生を海の上で過ごした父の物語を私は、聴くことができたのだろうか。