旅する蝶々
忘れられないTV番組がある。
2007年、NHKで放送されたプラネットアース絶景・天空の旅。名優緒形拳がメキシコの森林で何万もの蝶に囲まれて見せた素の顔。
「僕はもうこの世の人間ではありません・・・・。」と呟いたときの恍惚とした表情。翌年ガンで亡くなった。このときもう病魔に冒されていたと思う。
日本にも旅する蝶々がいる。
オオムラサキと国蝶の座を争ったアサギマダラ。黒白の水玉模様の体に、白・黒・茶の羽模様、自然の造形はかくも見事だ。
足にまとわりつくように、ふわふわと飛ぶその姿は幻想的。
国東半島の突端に浮かぶ姫島。アサギマダラの飛来地(途中中継地)として有名だ。やっと行くことができた。涼しいところでの繁殖を目的にここから日本列島を縦断し、福島県まで到達する。そして彼の地で生まれた子孫たちが、秋に戻ってきてここから南の国へ旅立つ。
日本全国の熱心なファン達がマーキングしてこの蝶の旅の足跡を追っているが、まだまだ謎の多い蝶。
ここで力つきた蝶の羽の残骸もチラホラ。
緒形拳は死ぬ直前、自身のルーツを求めて、大分県緒方町を訪ねている。子供達が水遊びに高じる清らかな川のそばの小さな神社で、愛おしそうに周囲を見つめていたあの眼差しが心にやきついて離れない。