木香薔薇

桜の開花が遅く、菜の花は桜が終わっても咲き続けているという、例年では考えられない春を迎えたが(いつもなら桜が咲く前に菜の花が終わる)、薔薇の開花に関しては、例年とほぼ変わらない開花状況だ。急にあったかくなって毎日半袖でOK!春を飛び越えていきなり初夏になったよう・・・。


うちの一番乗りはいつ黄モッコウ、英名ロサ・バンクシア・ルテア。バンクシアは英国人バンクス婦人に捧げられた薔薇なのでこの名がある。幸せの黄色。もともとは中国原産の薔薇で、イギリスに持ち帰られたもののあちらの気候にはあわなかったと記述がある。



さてミセスバンクスの旦那さんは、ジョゼフ・バンクス。王立キュー植物園の土台を作ったといわれる人物で、折しも世界の海に乗り出したキャプテン・クックの船に乗り込み、千数百の新種植物を採集し、プラントハンターとしての地位と名声を獲得した人物だ。採集した植物をキューガーデンで育成するかたわら有能な庭師をプラントハンターとして世界各地に派遣した人物として知られる。
中国から持ち帰られた薔薇は、ヨーロッパの薔薇と掛け合わされて、今で言う四季咲き性の薔薇の誕生へとつながることになる。


イギリスは、冷涼な土地で緑豊かな土地ではなかったので、海外から持ち込まれる鮮やかな植物に、彼の地の人は夢中になった。自分ちの庭をみどり豊かにしたいと熱狂的にガーデニング熱が高まった。薔薇の他にも熱帯産のラン、日本のユリ、あじさい、中国のシャクナゲにキク、サクラソウそしてペラゴニウムにアネモネ、枚挙にいとまがない。




そしてもうひとつこちらが重要なのだが、当時中国に独占されていた茶の木。これを自前で生産することが彼らの真の大きな目標だったようだ。植民地支配した土地に植物園をたて、そこにあのプラントハンターが園長として派遣され、広東の奥地から採取した茶の木を栽培し、自前で栽培・採集できるようになる。インドでの紅茶産業の出発点となったというから、プラントハンターというより戦う最前線のビジネスマンと言っていい存在だ。





中国名は木香薔薇だが、「香」という字ががついている割には香りは弱い。木香薔薇には4種類が在り、そのうちの白の一重花をつける、ロサ・バンクシア・ノルマリスが木香薔薇の原種といわれ、こちらは得も言われぬ良い香りがする。薔薇の先達の方からこの薔薇の良さを教えていただき購入して3年。今年はたくさんの蕾がついた。これから開花するのだが、スッキリとしたさわやかな香りで、この香りをかぎたいがために、一年間を待つ。



中国大陸にはこの一重の白の木香薔薇があちこちに自生してるんだろうか?そういう風景をぜひ見てみたいモノだが、まあ見果てぬ夢物語だろうなあ。